あるPTA会長のアクシデント 最終話
※この記事は、私の身の回りに起きたことを元に作成しています。ある方より不愉快、武勇伝にしか思えないと意見がありました。人それぞれ受け取り方は異なりますが、いじめに対して必死に取り組んだ記事です。ご理解のある方のみお読みください。
前PTA会長として
保護者の視線が痛い
マイクの前に立つと、保護者の視線が一斉にこちらを向く。とてもつらい状況だ。最前列を見ると、今年度本部役員の会計監査を引き受けてくれたOさんがいた。OさんはPTA球技大会などで大活躍の方だ。
普段から冗談などを交えて周りの皆さんを引っ張っていってくれるとても頼もしい方だ。事情を知っているようで、笑顔で応援してくれている。嫌な緊張感一杯の私の心の中で、少しだけ緊張がほぐれた。
ゆっくりと話し始めた
「先程校長先生から説明がありましたが、今回、このような事態が起きてしまったことは、誠に残念なことです。私は、発覚直後より学校側から説明を受け、被害者の保護者とともに、今後のことについて話し合いを重ねてきました。」
目の前にいる保護者たちが真剣な表情で私の話を聞いている。左側を見ると、先生たちも同様の表情だ。
「被害者の生徒は、こう言っては不謹慎かもしれませんが、不幸中の幸いとでも言いましょうか。このようなむごい仕打ちを受けても、気丈に毎日学校に登校しています。」
「しかし、中学生という身も心も未成熟な時に、あまりにもショッキングな出来事に見舞われてしまいました。その生徒がはたから見れば元気に見えても、心に負った傷はとても深いです。」
「また、被害者の保護者も、大変心を痛めています。私も同じ立場なら、どんなにショックを受けるか。無責任に大変だ、と思っても、こればかりは被害に遭った当人でなければ想像もつきません。」
「加害者の生徒は、ムカつくからとか、ちょっと脅してやろうとか単純に考えてしまい、間違った行為をしてしまったのだろうと思います。」
「被害者の生徒が、どんな気持ちになったか。どんなつらい思いをしたか。保護者も愛する我が子がこんなことをされ、どんなに心配しているか。同じ年頃の子どもを持つ皆さんなら理解してもらえると思います。」
「私は加害者の生徒に名乗り出ろ、とは申しません。ただ、今ここで私の話を聞いてくれている保護者の皆さまに、それぞれの家庭でこの件について話し合っていただきたいのです。」
「人間は誰だって、一瞬の妬み、恨み、怒りを持つことはあります。そのような感情を持たない人間はどこにもいません。しかし相手の私物を盗み、カッターで切り裂いたり脅しの言葉を書きまくる行為は、決して許されることではありません。」
「そんなことをして加害者の気は晴れるのでしょうか?逆に被害者の心の傷は消えません。親の心の傷も消えません。」
「そしてバレなかったからと思って、さらにエスカレートした行為をした時、取り返しのつかないことをしてしまう恐れもあります。」
「どうか、各家庭でじっくりと話し合ってください。人間は話し合うことでわかりあえるんです。中学生はまだまだ子どもです。愚かな行為をしたとしても、猛反省することによりまだ許されます。」
「今日この日より、二度とこのようなことが起こらないことを、前PTA会長として切に願います。」
話すことは話した
終わった。話している時、ズタズタにされた帽子と靴を見ながら泣いていた親の顔が頭に浮かんだ。途中で声が震えたのを覚えている。
保護者たちに、私の気持ちは伝わっただろうか?被害を受けた生徒と親のつらい思いは伝わっただろうか?とりあえず話すことは話した。
各家庭でじっくりと話し合ってもらいたい。それを聞いた加害者の生徒が、何とか心を改めてもらいたい。同じ過ちを犯さないでほしい。
被害がストップした
1ヶ月、2ヶ月が過ぎて
PTA会長の任務が終わり、次期会長に全てを引き継いだ。今年度は中学校に子どもがいない。しかし現在の状況を確認するために校長先生に会いに行った。現会長も一緒だ。
「あれからは何も起こらなくなりました。」校長先生が笑顔で話す。それは良かった。本当に良かった。
「ただ被害者の親さんはまだ複雑なようで、安心できないと言っています。」そうだろう。まだ一時的に起こらない状態だけなのかもしれない。
私もこの問題は、私の任期中に起こったことなので、今後も引き続き協力していこうと思っていた。
しかし校長が、会長職も終わって、今年子どもが学校にいないのに私に負担をかけるのは申し訳ない、今後は現会長を中心にこの問題に取り組むので、任せてはもらえませんか?と言った。
私も被害者の親とは以前から交流もあるし、会長職から降りたからと言って急にこの問題から手を引くことは出来ません、と言った。
現会長も校長と同様のことを言う。この会長は素晴らしい人格者だ。常々尊敬している。この人なら安心できる。ならば一歩引いたところで協力を続けます、ということにした。
以後、何も起こらなくなった
やがて半年、1年が過ぎた。あのようなことは起こらない。加害者は今も誰だかわからない。もしかしたら卒業しているかもしれない。
あの総会の話を保護者が各家庭で話し合ってくれたのだろうか?それを聞いた加害者の生徒が反省してくれたか?
自分の子どものことを一番理解しているのは、親である。まだ人間として不安定なこともあり、もしかしてウチの子どもが?と考える可能性もある。
どういう形にしろ、あの時の話が保護者から子どもへ伝わったのだと思いたい。人の心を傷つける行為は絶対に許されない。
子どもをどうしつけるかは、我々大人の責任
普段からお手本となるように心がけたい
子どもがどう育つかは、親次第だと思う。外で聖人君子のように振舞っていても、家に帰れば他人の悪口ばかり言っていれば、子どもも同じことをするようになる。
他にも例えが極端かもしれないが、子どもを虐待する親も世間にはいる。そんな環境で育つ子どもはどんな大人になるだろうか?
何も特別なことはする必要はない。子どものため、家庭のために一生懸命働いて、愛情を注ぐ。そんな親の姿を見ていれば、子どもは素直に育つはずだ。
子どもは親の背中を見て育つ
今回の件は、自分勝手な感情を抑えられない生徒が起こした事件だった。ムカつくという言葉。私たちも中学時代には良く使った言葉だ。
なぜムカつくのか?自分にはマネ出来ないものを持っているからという妬み、嫌なことをされたという恨み、イライラするからという怒り。これは大人になっても続く人間の感情である。
誰でも持つその感情を抑えることを子どもに教えるのも親の大切な責任だ。人の心を傷つける身勝手な行動は許されない。
子どもはいつも親の行動を見ている。子どもにとって親は常にお手本の対象だ。
いじめやそれに準ずることを根絶することは難しいだろう。しかし私たち親が少しでも子どものお手本となる行動をしていれば、いじめは少なくなると思いたい。
終わり